大阪地方裁判所 平成7年(ワ)9672号 判決 1999年3月31日
原告
岡田理子
同
原純子
同
春名ともみ
原告ら訴訟代理人弁護士
桜井健雄
幸長裕美
奥村秀二
被告
株式会社日証
右代表者代表取締役
大塚泰正
右訴訟代理人弁護士
川見公直
西野淑子
柴田美喜
向来俊彦
主文
一 原告らが、被告に対して、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
二 被告は、平成六年一一月から本判決確定に至るまで、毎月二〇日限り、原告岡田理子に対し、一か月一九万九〇〇〇円の割合による金員、原告原純子に対して一か月一八万四〇〇〇円の割合による金員、原告春名ともみに対して一か月一七万円の割合による金員及び右各金員に対する右各支払期日の翌日から支払済みまで年六分の割合による金員をそれぞれ支払え。
三 原告らの被告に対する訴えのうち、本判決確定後の金員支払を求める部分は、いずれも却下する。
四 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、被告の負担とする。
六 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 主文第一項と同旨
二 被告は、平成六年一一月から、毎月二〇日限り、原告岡田理子に対し、一か月一九万九〇〇〇円の割合による金員、原告原純子に対して一か月一八万四〇〇〇円の割合による金員、原告春名ともみに対して一か月一七万円の割合による金員及び右各金員に対する右各支払期日から支払済みまで年六分の割合による金員をそれぞれ支払え。
第二事案の概要
本件は、被告から解雇された原告らが、右解雇は整理解雇の有効要件を満たさない違法かつ無効なものであると主張して、従業員たる地位確認と解雇後の未払賃金の支払いを求めた事件である。
一 当事者間に争いのない事実
1 当事者
(一) 被告は、金融業等を営む会社で、資本金は四五〇〇万円であり、肩書地に本店が所在するほか、東京及び名古屋に支社を有している。従業員数は、後述の和議申立時において、一七四名(内、内勤社員九四名、営業社員五二名、その他嘱託、パート等二八名)であった。
被告は、平成六年一〇月二七日、大阪地方裁判所に和議を申立て(大阪地方裁判所平成六年(コ)第三九号)、同裁判所は、平成七年八月和議開始を決定し、同年一〇月二三日和議認可決定をした。
(二) 原告岡田は、昭和五八年二月七日、被告に内勤社員として雇用され、経理部に配属され、その後、平成五年一月から営業部に配置替えとなった。
原告岡田は、試用期間経過後、日証職員組合(以下「組合」という。)に加入し、昭和五九年から婦人部長として三年間執行委員をつとめ、一時出産育児のため、退いていたが、平成四年九月から執行委員長を二年間つとめ、平成六年九月副委員長に就任した。
(三) 原告原は、昭和六三年四月一日、被告に内勤社員として雇用され、三か月の試用期間中電算部に配属され、その後審査部に配属となり、平成六年四月から開発部に配置替えとなった。
原告原は、試用期間経過後、組合に加入し、平成四年九月から副委員長をつとめ、平成六年九月執行委員長に就任した。
(四) 原告春名は、平成三年三月一日、被告に内勤社員として雇用され、開発部に配属された。
原告春名は、試用期間経過後、組合に加入し、平成四年九月から婦人部長をつとめ、平成六年九月書記長に就任した。
(五) 組合は、被告従業員のうち、内勤社員で係長までの者に組合員資格あるものとしているが、東京支社及びその管轄下の営業所においては日証労働組合が存在し、組織化(ママ)になかったので、本社及びその管轄下の営業所(名古屋以西)でみると、和議申立時における組合員は、組合員資格を持つ従業員三七名中三二名(組織率八六パーセント)であった。
2 第一解雇
(一) 被告は、平成六年一〇月二七日、従業員全員に対し、同月二八日付で解雇する旨通知した(以下「第一解雇」という)。
解雇理由は、和議の申立をして再建を図るということであった。
そして、被告は、同月二八日付で四五名を再雇用し、同年一一月半ばころに一名を追加して再雇用した。被告本社においては、三〇名が再雇用されている。
その後、同年一一月一四日から一八日にかけて、解雇予告手当が支払われ、また、退職金の一部が一二月末に支払われた。
(二) 原告らは、同年一二月二七日、大阪地方裁判所に対し地位保全等の仮処分を申立て(大阪地方裁判所平成六年(ヨ)第三九五八号)、同裁判所は、平成七年七月二七日、第一解雇は無効であるとして原告らの地位保全と賃金の一部仮払いを命じる仮処分決定をした。
3 第二解雇
被告は、平成七年七月二九日、原告らを同月三一日付で再度解雇する旨の通知を発し、原告らは、右通知を同年八月一日受領した(以下「第二解雇」という)。
解雇理由は、就業規則四〇条一号「事業場の都合によりやむを得ないとき」に該当するというものであった。
4 原告らの賃金
原告らは、本件第一解雇に至るまで、毎月二〇日に一か月分の賃金の支給を受けてきた。また、被告は右解雇後再雇用した従業員に対しても毎月二〇日に一か月分の賃金を支給している。被告は、本件第一解雇後、原告らに対し、賃金を支払わない。
(一) 原告岡田は、本件第一解雇前二か月間に、一か月平均一九万九〇〇〇円(一〇〇〇円未満四捨五入)の賃金支給を受けてきた。
(二) 原告原は、本件第一解雇前三か月間に、一か月平均一八万四九〇〇円(右同)の賃金支給を受けてきた。
(三) 原告春名は、本件第一解雇前三か月間に、一か月平均一七万円(右同)の賃金支給を受けてきた。
二 本件の主たる争点は、第一及び第二解雇が、いわゆる整理解雇としての要件を具備することなく、解雇権を濫用してなされた違法なものである否(ママ)か、という点である。
なお、被告の主張には、第一解雇が整理解雇ではないかのように主張する部分があるが、前記争いのない事実によれば、第一解雇は和議申立に伴って行われたもので、被告の存続と営業継続を前提としていること、現に再雇用という形態をとって従業員の一部は引き続き雇用を継続されていることによれば、第一解雇は実質的に見て、再雇用されなかった者に対する整理解雇に相当することは明らかであり、第二解雇も、後述の被告主張のとおり、仮処分決定において第一解雇の効力が否定されることに備えて、整理解雇に不備とされる要件を満たしたとして予備的にしたものというのであるから、これもまた整理解雇であることは明らかというべきである。
第三争点についての当事者の主張
一 被告の主張
1 整理解雇の要件
整理解雇が有効であるためには、一般的に、人員整理の必要性、使用者の解雇回避努力、手続の妥当性、被解雇者選定の合理性が必要とされているが、整理解雇といっても種々の場合が存することから、右各要件を充足するか否かの判断は、事案に応じて総合的に判断すべきである。
金融業においては和議が認可されたとの前例はなく、本件において、被告は破産も覚悟した上で和議申立を行っているのであって、余剰人員を放置することは被告の存続を不可能にすることが明らかであり、人員整理の必要性は非常に大きく、しかも、会社再建という時間的経済的に切迫した状況下にあった。
したがって、右各要件の判断に当たっては、これらを総合的に判断し、解雇の必要性が大きいこととの相関関係上、他の要件、とりわけ手続の妥当性の要件は緩和されるべきである。
原告らは、被告の経営破綻に、経営者の放漫経営、粉飾決算等の不正が存し、かかる事情が整理解雇の要件の判断において考慮されるべきであると主張するが、被告は、毎年会計監査人の監査を受け公正な会計原則により決算を行ってきているのであって、経営上不正な点はなく、仮に従前の経営者が放漫経営などの不正を働いていたとすれば、従前の経営者を残存させた和議が認可されるはずがない。
2 第一解雇
(一) 人員整理の必要性
(1) 被告が、第一解雇に至った経緯は次のとおりである。
被告は商業手形割引、不動産担保融資、有価証券担保融資を主たる業務としているが、平成二年のいわゆるバブル経済崩壊によって、顧客からの弁済が滞るようになり、株式担保融資に関して多額の延滞債権が発生するようになった。他方、不動産価格の急落により、被告が債権者に担保として提供していた不動産の担保価値も低下し、債権者からは追加担保を要求されるようになった。
被告は、不況を乗り切るため、経営合理化等種々の経営努力を行ってきたが、経営状態は好転しなかった。
平成六年八月二日、被告の顧客である株式会社京浜テントが取引停止処分を受け、被告は再割引先から右株式会社京浜テント振出の三五〇〇万円の手形の買戻を余儀なくされ、さらに、同年一〇月一八日、株式会社大栄貿易公司(以下「大栄貿易」という。)が和議申立をして倒産したことにより、被告は、再割引先銀行から大栄貿易振出の五〇〇〇万円の手形の買戻を迫られたことに加え、同月分の延滞債権の回収が遅れていたため、同月末に支払うべき約定弁済金等約二億六〇〇〇万円の支払のめどが立たなくなり、事実上倒産せざるを得なくなって、同月二七日和議申立に至った。
被告を和議手続によって再建するためには、企業規模の縮小により、必要最小限の人員で最大限の収益を挙げることが不可欠の要請であって、そのため、被告は従業員の解雇を余儀なくされた。
(2) 被告が従業員全員を解雇したのは、全員解雇しなければ退職金支払に不公平が生じるおそれがあったこと、再雇用者を選出する時間的余裕がなく、しかも、経済的に余剰の人件費を支払う余裕がなかったからである。
被告では、従業員の退職金については適格年金制度を利用し、日本信託銀行に積立を行っていたが、解約手続きや解約した場合の積立金の分配方法は明らかでなく、同銀行が被告の大口債権者であることからして、倒産を前提とした解約手続等を問い合わせることができなかった。被告は、積立金が従業員全員の退職金を支払うのに不足することを知り、先に退職した従業員には、退職金が全額支給されるが、積立金が足りなくなった時点で退職した従業員には支払われなくなるのではないかと懸念した。
不足額については、被告が負担せざるを得ないところ、被告が破産に移行した場合、被告に残った従業員の退職金債権は優先破産債権となるに過ぎず、支給時期が遅くなるのみならず、全額支給できるかも明らかでなく、退職時期によって従業員間に不公平が生じるおそれがあったことから、被告では、従業員間の公平を図る趣旨で全員解雇、再雇用という手段を採ったものである。
また、被告のような金融機関では、経費の中で人件費の占める割合が大きく、全従業員の雇用を続けたとすると月額五〇〇〇万円の人件費が必要となり、和議申立後かかる支出を継続することは不可能であった。
以上から、被告が全員解雇、再雇用という方法をとったことには合理的な理由がある。
(二) 解雇回避努力
被告は、経営不振となった平成二年頃から、次のとおり、とりうる雇用調整手段等を尽くしてきており、解雇回避努力をしてきた。
(1) 被告は、新規採用の抑制や退職指導等による雇用調整を行ってきた。そして、平成四年六月に経営合理化対策推進本部を設置し、採算のとれていない店舗の統廃合等、合理的で効率的な経営を行うべく対策を立案推進していった。
平成五年八月には内勤社員に対する希望退職者の募集を行い、これに応じた五五歳以上の従業員四名が退職した。
同年九月には、テレアポ活動のために採用していたパートの女子従業員を解雇した。
平成六年三月には内勤社員の営業社員への転籍優遇制度を設置するなどした。
これらの雇用調整の結果、平成元年には、店舗数一七店舗、従業員数三五七名であったのが、和議申立の直前には店舗数六店舗、従業員数一七四名に削減された。
(2) 被告は、平成四年から平成六年にかけ、三度にわたり役員報酬の減額を行った。
(3) 他方、取引先である金融機関には債務返済の猶予や金利減免の交渉を行い、平成四年に延滞債権回収のためのプロジェクトを設置し、さらに同五年には右プロジェクトを専門化して延滞債権回収を強化するなどしたほか、平成六年には、利息収入三〇パーセントアップ目標達成マニュアルを作成するなどして効率的な営業の推進も図ってきた。
(三) 解雇手続の妥当性
(1) 被告は、平成六年一〇月一八日、大栄貿易が和議申立をしたことにより、買戻を求められた手形の代金を準備できなかったことから倒産に至ったのであって、従前から解雇を計画していたものではない。
また、和議申立を決めた後も、和議申立までは従業員に解雇について説明していないが、それは、被告が手形割引を主たる業務とする金融機関であり、被告の営業が信用によって成り立っているところから、和議申立を予定していることが外部に漏れると、信用不安から直ちに手形割引は中止され、取り付け騒ぎが起こり、会社の再建が困難となるからであって、やむを得ない措置であった。
(2) 被告は、和議申立を行った平成六年一〇月二七日午後三時から一時間にわたり、被告本社において、電話番を除く本社全従業員に対して、和議申立に至った経過の説明と翌二八日付で全員解雇せざるを得なくなった事情、今後の再建計画、再雇用者の選定基準の大要、退職金及び予告手当の支払等について具体的な数字を挙げて説明し、従業員からの質疑に対しても誠実に回答した。
その際、従業員の同意を得るまでには至らなかったが、それは、和議申立後、従業員や組合との話し合いを繰り返して人員整理に手間取っていたのでは、資金繰りができなくなり、和議債権者の協力も得られなくなるためであって、従業員の同意を得るだけの時間的経済的余裕がなかったことによる。
従業員が納得するまで説明しなければ解雇が無効となるというのであれば、それは被告に破産を強いることであり、そうなれば、結局、従業員全員を解雇せざるを得ず、ひいては従業員全体にとって不利益となる。
(3) さらに、被告は、組合に対して、従前から、年に三度開催される労使協議会において、何度も、人員削減の必要性を説明してきており、被告が危機的状況にあることは原告ら三名を含む全従業員が既に理解していた。
(四) 人選の合理性
(1) 被告は、和議申立後、手形割引業務に専念するとともに、延滞債権回収に全力を投入しなければならず、そのために人員は必要最小限度で、再雇用されるべき者は、十分な知識経験を有し、責任感があり、同僚や上司の信頼を得ている者である必要があった。
そのため、被告は、平成六年一〇月二六日、役員間で次のような基準(以下「本件選別基準」という。)を協議設定し、右基準に従って、各部署の責任者からの推薦をもとにして再雇用者を選出した。
すなわち、<1>延滞債権回収の任に当たり、是非とも回収に必要で管理業務に秀でた者、<2>商業手形割引、審査業務に精通した能力のある者、<3>コンピューター操作、プログラムの作成ができる者、<4>商業手形割引、商業手形収集、営業能力のある者、顧客をよく知っている者、<5>商業手形を再割引してくれる顧客(いわゆる銀主)を持っている者、<6>社会保険業務手続、ワープロのできる者、事務能力のある者、<7>経理経験に秀で、事務処理能力のある者、金銭の取扱になれている者、<8>銀行、ノンバンク等の担当で、先方の顔をよく知っている者、<9>統率力があり、部下を指導でき、苦境に耐えられる者、というものである。
具体的な手続としては、和議申立後、各役員は、本件選別基準に従って、担当部署毎に、各従業員の能力、技能について最もよく知っており、かつ再建に必要な部長クラスの従業員を選出し、選出された幹部クラスの従業員に、本件選別基準に則って必要な従業員を選出させ稟議書により報告させた。そして、同年一一月七日ころ、役員間で協議して再雇用者を内定し、各従業員の意思確認をした上で、大阪本社では、同月一五日、東京支社、名古屋支社では同月一六日採用通知を渡した。
(2) 原告らを再雇用しなかったのは、原告らが、本件選別基準のいずれにも該当せず、上司の推薦を得られなかったからである。
原告らは、これまで、自己の責任と判断で、手形割引の業務や延滞債権の回収等を行ったことはない。
原告岡田は、営業部に所属していたが、営業部の業務は基本的に歩合給の営業社員によって行われており、同原告の職務は顧客からの電話の営業社員への取次にすぎなかった。また、同原告は経理部所属経験があるが、担当業務は計算出金業務であり、本件選別基準<7>にも該当しない。
原告原及び同春名は開発部に所属していたが、同原告らの業務は、電話の受付や開発部長及び審査部決裁者の判断材料となる資料収集に過ぎず、収集した資料をもとに調査報告書を作成することもなく、その他手形割引の可否について判断することは一切なかった。割引不可となった場合の顧客への対応や新規依頼者からの聴取は十分な配慮を要するので、同原告らは殆ど対応していなかった。なお、原告原は審査部所属経験があるが、資料担当者として、決裁で割引可となった案件の処理を担当していたに過ぎず、調査は担当していなかった。
原告らは、原告らが再雇用されなかったのは、被告が、原告らの組合活動を嫌悪し、あるいは、産前産後休暇や育児休暇等を行使したことを理由とするかのようにいうがそのような理由によるものではない。
再雇用された従業員の中には、組合員が合計六名含まれているし、原告岡田及び同原は、右育児休暇等を除いても、遅刻や欠勤が多く、これについて事前連絡をするという就業規則に反することも多かった。
さらに、経済的打撃の点でも、原告岡田の夫は賞与を除き月額一八万円の収入を得ていること、原告原の夫は勤務医であり、賞与を除き手取月額三三万円を下らない収入を得ているところ、再雇用されなかった従業員中には、同原告らより経済的打撃の大きい者も存する。
2(ママ) 第二解雇(予備的解雇)
被告は、仮処分事件の決定において、第一解雇後には「組合に対し、必要な説明をしているし、本件審理の過程においても、債務者(被告)の選択がやむを得なかったものであることを十分明らかにしている」と認定されながらも、第一解雇前の説明協議義務を尽くしていないとして右解雇を無効と判断された。そこで、被告は、予備的に平成七年七月三一日付で解雇する旨通知した。
予備的な解雇であり、第一解雇と時期的にも接着しており、人員整理の必要性、被告の解雇回避努力、被解雇者選定の合理性は第一解雇において主張したと同様である。
二 原告の主張
1 整理解雇の要件
(一) 整理解雇においては、従業員の生存権保障の見地から、使用者の解雇権の行使は信義則上制限されており、整理解雇が有効と認められるためには、第一に人員整理の必要性、第二に使用者における整理解雇回避努力、第三に解雇手続の合理性(使用者による事前説明のみならず、使用者には、従業員側を不必要な混乱に陥れたり、不明朗な手続で整理解雇をしたりなどしないことも要請されている)、第四に被解雇者選定の合理性という要件が全て満たされる必要がある。
(二) 右四要件は、総合的判断の要素ではなく、いずれも相互に独立した要件と解すべきであって、右要件相互間の事情に影響されることなくされることなく(ママ)、その存否が独立して判断されるべきである。
したがって、人員整理の必要が高いからといって、他の要件の(ママ)を充たす必要性は通常の場合より低くてよい等と解すべきではない。
仮に、右要件を総合判断の要素と解するとしても、人員整理の必要が高いからといって、他の要件を充たす必要性が無限定に低下するものではない。
(三) また、被告が債務超過に陥った原因は、多額の貸付金の貸倒にあるが、これは、被告代表者が昭和五九年に代表取締役に就任して以来、いわゆるバブル景気に乗り、不動産担保融資及び株式担保融資を拡大してきたことによるものであって、被告代表者の杜撰な与信管理の結果であり、しかも、被告代表者は平成二年以前から粉飾決算を行って自らの経営の失敗を隠蔽してきており、結局、被告の経営破綻はこのような被告代表者の不正行為及び重大な注意義務違反によるものというべきである。
右のように、経営破綻の原因に、経営者側の不正行為や重大な注意義務違反が存する場合、解雇回避努力の有無、解雇手続の合理性、被解雇者選任(ママ)の合理性という各要件の判断には、右経営破綻の原因を踏まえた内容が付加されるべきである。
2 本件第一解雇
本件第一解雇は、解雇回避努力、解雇手続の合理性及び再雇用者(被解雇者)選定の合理性を欠いており、解雇権の濫用として無効である。
(一) 解雇回避努力の不存在
(1) 被告は、和議申立前はもちろん、申立後であっても、再建計画を立て、組合や従業員に十分な説明をした上で一般従業員を対象とした希望退職者を募集することは可能であったにもかかわらず、そのような雇用調整は全く行っていない。
被告が、平成五年八月に行った希望退職者の募集及び平成六年三月に行った内勤社員の営業社員への転籍優遇制度はともに管理職を対象としたものであって一般社員を対象としたものではなかった。
(2) 被告は人員削減とともに、会社組織の合理化や役員の削減等にもつとめるべきであったにもかかわらず、平成四年以降営業所の廃止を行ったのみで、本社組織の合理化は何ら行われることはなかった。
(3) 被告の経営破綻には、経営者の不正行為や重大な注意義務違反がその原因となっており、かかる場合の経営合理化には、役員による損害の填補等の積極的な措置が取られるべきであるにもかかわらず、役員報酬の減額が行われたのみでそれ以上の措置はとられていない。
(二) 解雇手続の合理性
(1) 被告は第一解雇を行うに当たり、事前説明を全く行っていない。
被告は、仮処分の審尋において、事前説明を行わなかったことを認めていたにもかかわらず、本訴において、平成六年一〇月二七日に行った被告代表者の解雇通知の際の説明をもって、事前説明である旨主張するに至った。
しかしながら、解雇通知と同時に説明がなされたのでは、事前説明がなされたとはいえないし、右の被告代表者の説明は、和議申立を行ったことと和議申立に至った事情を述べたに過ぎず、再建案や資金計画、再雇用人数、再雇用基準等についての説明はなく事前説明といえるものではなかった。
加えて、被告の経営破綻は、経営者の不正行為や重大な注意義務違反がその原因となっているのであるから、被告は、経営破綻の経緯及び原因についても説明すべきところ、そのような説明はなかった。
(2) 被告は、退職金支給時期等の点で従業員間に不公平を生じさせないようにするため、全員解雇の方法によったと主張するが、仮に被告が破産に移行したとしても、解雇されなかった従業員が現実に退職する時期には破産手続も相当進行した時期となっているし、退職金債権が優先債権であることなどからして、問題とするほどの不公平が発生することはない。
被告が、全員解雇という方法をとった真のねらいは、整理解雇に対する規制を潜脱し、恣意的な再雇用を行うことにあった。そして、全員解雇とすることによって、従業員及び組合を混乱状態に陥れ、組合の活動基盤を奪い恣意的な再雇用に対する抗議活動を封じこめようと意図したものである。
(3) 被告は、和議申立後、再雇用者の選出及び通知を行った等と主張するが、和議申立前から、再雇用予定者に対しては、解雇予告手当を辞退する旨の意思確認を行ったり、東京支社では、平成六年一一月一日に日証労働組合との間で同支社における再雇用者を書面で確認したりしていたほか、解雇通知後も再雇用者は引き続き業務を継続したりしており、第一解雇とその後の再雇用の手続には、被告の右主張に反する不審点が多々生じており、解雇手続は不明朗で合理性を欠く。
(三) 再雇用者選定の不合理性
(1) 整理解雇に当たっては、被解雇者の人選が客観的で合理的な基準に基づいて行われることが要請されているところ、被告は、本件選別基準に基づいて再雇用者を選別したと主張するが、原告らに対して、事前に右のような選別基準が示されることはなかったし、被告が本件選別基準に基づいて人選を行ったという事実もない。
(2) 現実になされた再雇用者の人選についてみても、業務能力に関係なく部長職や銀主(手形割引資金の提供者)、大株主の縁故者をほぼ全員再雇用しているほか、再雇用後の配属部署に経験のない者を再雇用したりしていて、被告が主張する本件選別基準に該当しない人選がなされていること、従前の組織体制を維持したまま、かつ、人件費の負担の大きい部長職を残すなど経費削減に反する人選がなされていること、被告の経営破綻は経営者の不正行為や重大な注意義務違反によるものであるにもかかわらず、経営破綻に責任を負うべき役員や部長職が再雇用されていることなど、その人選は経営破綻の責任を免除し、幹部社員や大株主縁故者の地位保全を図ったものというほかなく、不合理である。
(3) 原告らを解雇する理由はない。
原告らは、被告の主要な業務である手形割引の窓口というべき開発部あるいは営業部に所属しているところ、被告は、原告らが、自己の責任と判断で手形割引業務や延滞債権の回収等を行ったことがないことを再雇用しなかった理由とし、さらに、原告らの従事していた業務内容を、資料収集や電話の取次にすぎないと意図的に矮小化して、原告らが被告の再建に不要であると主張する。
しかしながら、原告らは、決裁や割引率設定以外の業務全てをその担当部署で行っていたのであって、手形割引業務の重要部分を担っていたし、決裁者の専門性や経験もさほどのものが必要とされるわけではなく、原告らもある程度の研修を積めば可能であった。また、決裁経験のない従業員は多数再雇用されている。
(4) 被告では、各部署毎に責任者と現場の事務処理を行う従業員とがそれぞれ再雇用されているにもかかわらず、原告らが所属した開発部及び営業部のみ、部長が再雇用されたのみで実務を担う従業員が採用されなかった。
他方、被告は、これまで、原告らに対し、組合役員を降りるよう強要しようとしたり、不当な配属替えをしたりしてきたほか、労使協議会でも、組合に対し不誠実な対応に終始した上、組合があると銀行にいやがられると組合を敵視する発言までしてきた。さらに、第一解雇後、原告らを組合代表から排除しようとして、他の者を代表に選任するよう要求して組合活動に介入したり、組合事務所を実力で閉鎖しようとしたりしてきた。
以上の経緯からすると、被告が原告らを再雇用しなかった理由は、原告らの組合活動を嫌悪した不当労働行為意思によるものというほかない。
(5) 被告は、原告岡田及び同原については、その勤怠状況の悪さも再雇用しなかった理由の一つとしているが、同人らの欠勤等は、育児休暇や育児時間による時間短縮を行使したことによるものである。
また、被告は、延滞債権回収が深夜業務に及ぶことから女性従業員の再雇用は限定されるともいうが、右は労働基準法の母性保護の趣旨に反する。
これらを選別の理由とすることは、男女雇用機会均等法一一条等に反する女性差別であり、公序良俗に反する。
さらに、前記のとおり、被告は、原告らが決裁経験を有しないことを再雇用しなかった理由であるとするが、被告では女性従業員を決裁者の地位から排除するとの人事政策がとられており、右の基準を形式的に適用することは、間接的な女性差別というべきである。
2(ママ) 第二解雇
第二解雇は、整理解雇に必要な要件を全て欠いており、解雇権の濫用として無効である。
(一) 第二解雇がなされた平成七年七月当時、被告は和議計画を順調に達成してきて和議開始の見込が立ち、今後の手形割引業務拡大のための体制作りに人員補充を図っていたのであり、人員整理の必要性は全くなかった。
(二) 仮に人員整理の必要があったとしても、第二解雇に先立ち希望退職者の募集等解雇回避のための措置は何らとられていない。
(三) 第一解雇後の労使協議会の開催等は第一解雇に関係することであって、第二解雇の事前説明には当たらない。
被告は、第二解雇時の経営状況及び解雇の必要性、解雇の条件等を事前に説明する必要があったにもかかわらず、かかる説明は一切なされていない。
(四) 第二解雇は、第一解雇が無効であるとの仮処分決定の翌日になされており、原告らが、第一解雇後も組合員を組織して解雇予告手当や就業規則どおりの退職金の支給を迫ったことや右仮処分決定を得たことなどに対する報復措置としてなされたものであって、人選には何ら合理性がない。
第四当裁判所の判断
一 整理解雇の要件について
本件の第一解雇及び第二解雇が、実質的に見て、いわゆる整理解雇に相当することは前記のとおりであり、整理解雇は、従業員に何らの帰責事由がないにもかかわらず、使用者側の事情によって、一方的に従業員たる地位を失わせるものであるから、使用者が整理解雇をするに当たっては、労使間の信義誠実の原則に従って解雇権を行使すべきことが強く要請され、使用者の解雇権の行使が労使間の信義に反した結果、社会通念上相当なものとして是認できないときは、当該解雇の意思表示は、権利濫用として無効になるというべきである。
そして、当該解雇の意思表示が権利濫用となるか否かは、主として以下の観点を総合的に考察して判断すべきである。
すなわち、第一に、人員削減の必要性が存すること、第二に、希望退職者の募集等使用者が解雇回避のための努力を行ったこと、第三に、被解雇者の選定が客観的で合理的な基準に基づいてなされたこと、第四に、解雇手続が妥当であること(使用者が、労働組合や従業員に対して、具体的状況に応じ、解雇の必要性やその時期、規模、方法を説明し、納得の得られるよう協議したことなど)が必要と解される。
二 第一解雇の有効性
1 以上の立場から、本件の第一解雇が権利濫用となるか否かについて判断するに、先ず、証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、第一解雇がなされた平成六年一〇月二七日、被告は大阪地方裁判所に和議を申し立てて事実上倒産しており、事業規模の縮小は避けられないところ、被告は和議手続において従業員五〇名程度に縮小することなどの再建策を提示していたことが認められ、右和議が認可されなければ破産手続に移行せざるを得ない状況にあったのであり、人員削減の必要性が大きいことは明らかで、この点は、当事者間にも争いはない。
2 そこで、その余の要件について検討する。
(一) 証拠(<証拠・人証略>、被告代表者)によれば、以下の事実が認められ、これを左右するに足る証拠はない。
(1) 被告は、大栄貿易公司が平成六年一〇月一八日和議を申し立てて事実上倒産し、再割引していた同社振出手形の買戻を求められたことが契機となって資金繰りが付かなくなり、支払不能に陥った。
被告では、破産申立も検討されたが、同月二一日ころ、結局和議の申立を行うことが決定された。和議申立に伴い、事業規模の縮小を余儀なくされ、従業員の人員削減は避けられないところとなったが、他方、金融業者に和議が認可された前例も乏しく、破産への移行も強く危惧されており、和議申立後の従業員の確保が懸念された。
被告は従業員の退職金について適格年金制度を利用して積立を行っていたが、従業員全員の退職金を支給できるほどには積み上がっておらず、退職させる従業員と被告に残す従業員との間に退職金支給に関して不公平が生じるおそれもあったことから、被告は、同月二五日頃、和議申立と同時に従業員全員を一旦解雇するとの方針を決定した。
(2) 同月二六日、大阪本社では、翌日午後三時から全従業員を召集して説明会(ただし、説明会の内容については知らされなかった。)を開催する旨の通知が被告から従業員に回覧された。
同日、被告の電子計算室に配属されていた竹内麻貴子(旧姓山本)は、勤務終了後帰宅しようとして社屋を出た際、同室長長家雄平から、会社が危なくなっても残ってほしい旨依頼された。
翌二七日午前、原告原は、同日の説明会で従業員の全員解雇が発表されるとの情報を得て、組合員に抗議を呼びかけたりしていたが、その際、審査部配属の馬越美佐子から、前日、審査部長寺田吉宏から被告に残るよう依頼されたことを打ち明けられた。
和議申立は、同日正午ころになされたが、和議申立書では、従業員について「申立と同時に一旦全員を解雇した後、五〇名程度を再雇用する(なお、右程度の人員の再雇用は確実に可能である)」とされていた。
大阪本社では、同日午後三時から説明会が開催され、招集された従業員に対し、被告代表者から、和議申立に至った事情、同月二八日付で従業員全員を一旦解雇し、一部の者を再雇用することなどが説明され、説明会終了後、被告から各従業員に解雇通知が渡された。
翌二八日午前中、被告本社では、離職手続の説明会が開催されるなどしたが、一部の従業員は通常どおり業務を続けていた。
このような被告の措置に対して、原告らは、被告本社従業員に対し、解雇無効を訴えるビラを配ったり、離職手続きをとらないよう呼びかける一方、被告に労使協議会の開催を要求した。
その結果、被告と組合との間で、翌二九日に第一回労使協議会がもたれたのを皮切りに、以後一二月一三日までの間に前後合計六回の労使協議会が開催され、その中で、解雇予告手当や退職金の支給等が協議されるとともに、組合は再雇用者の人選基準も問い質すなどしたが、これに対して、被告代表者は、再建に役立つ人、延滞債権の回収のノウハウのある人、日証のエッセンスの固まりのような人等と答えるのみであった。
以後、被告は、原告らが地位保全等の仮処分を申し立てたことを理由に、訴訟当事者である原告らとは協議できないとして、原告らを代表者とする労使協議会の開催を拒否するようになった。
被告は、原告らが申し立てた右仮処分事件の審理において、初めて本件選別基準に基づいて、再雇用者の選出を行った旨主張するようになった。
この間、同年一一月一日、東京支社では、同支社従業員で組織する日証労働組合と支社長斎藤泰との間で、営業部員の顧客の処遇等をめぐる確約書(<証拠略>)が取り交わされたが、その中で、同支社従業員中の再雇用予定者が氏名を掲記して確認されている。
また、同月八日、被告は和議裁判所に対し、解雇者への予告手当の支払許可申立を行ったが、その許可申立書には、後に被告が再雇用の採用通知を発した従業員がほぼ全員、解雇予告手当支払対象者から除外されて、掲記されていなかった。
(3) 被告は、同月七日ころ、各部署部長クラスにある幹部従業員の推薦に基づいて稟議で再雇用者を内定させ、同月一五日ころ、再雇用者に対し、同年一〇月二八日付で採用通知を送付した。
被告に再雇用されたのは、総数四六名であり、その内訳は、被告が経営する駐車場の嘱託社員八名が全員再雇用されたほか、これを除く三八名中、大阪本社が二一名(内嘱託及びパートが各一名)、東京支社が一一名(内嘱託が二名)、名古屋支社五名(内パートが一名)というものであった。また、再雇用者の内容は、支社長二名が再雇用されたほか、本社、支社を通じ、各部署(本社は八か部、東京支社は六か部、名古屋支社は五か部)の部長クラスはほぼ再雇用されたが、一般従業員は各部若干名が再雇用されたのみで、原告らが所属する開発部及び営業部では一般従業員は全く再雇用されなかった。
(二) 以上の認定事実によって判断する。
(1) 被告は、本件第一解雇について被解雇者を選出するという通常の指名解雇の方法によらず、和議申立と同日に全従業員をその翌日付で解雇したうえで一部の者を再雇用という方法により選出したのであるが、右のような手法は、結局、選出されなかった従業員を被解雇者として選定したのと同様であり、再雇用者の選出基準は、同時に被解雇者選出基準でもあるから、その選定基準に差をもたらすものではなく、客観的で合理性のあるものでなければならない。
なお、原告らは、被告が全員解雇の方法によったことを非難するが、右方法を選択した理由が退職金支給における不公平を回避するためであったことからすれば、被解雇者選定基準に差をもたらすものでない以上、これを不当とするほどのことではない。
(2) ところで、被告が和議申立と同時に解雇の告知をしたことには疑問がある。
被告が和議申立に至るまでに従業員に解雇について説明しなかったことは、本件第一解雇の規模からして、これが明らかになれば、被告の信用が一層損なわれることは明白であり、これを咎めることはできないが、和議申立の後は、その申立に至る経過や今後の見通し、これに伴い経営規模を縮小せざるを得ないことなどを従業員に説明し、短期間の内に希望退職を含む従業員の意向を聞き、これを考慮して被解雇者、再雇用者を選定すること、しかる後に解雇基準ないし再雇用基準を示して従業員の納得を得られるように説明義務を尽くすことは可能であり、少なくとも解雇日を告知の翌日でなく、一か月後として、その間に解雇基準ないし再雇用基準を示して、従業員の納得を得られるように説明することは可能であり、これにより、経済的支出が和議の可否に重大な影響を及ぼすほど増加するものとはいいがたい。
被告が従前に店舗の減少、雇用調整により従業員数の(ママ)減少させる等の経営努力をしていたとしても、右義務が免除されるものではない。
(3) しかるに、被告は、前述のように和議申立と同時に従業員全員をその翌日付で解雇したばかりでなく、従業員らに全員解雇という説明もしていない段階から、和議申立書に五〇名程度の人員確保は確実に可能と記載しており、また、和議申立の前日である平成六年一〇月二六日、竹内や馬越が、上司から残留を示唆されていること、被告から従業員らに全員解雇の説明や通知がなされた後にも業務を続ける者がいたこと、東京支社では早くも同年一一月一日再雇用者が労使間で確認されていることなどを総合すると、被告は、和議申立時ころには、既に再雇用者の人選を終えていたものと推認され、その後、解雇告知の当日、被告代表者から和議に至った事情、従業員全員を一旦解雇し、一部の者を再雇用することの説明がなされたものの、再雇用の基準の説明はなく、その後合計六回の労使協議会が開かれたが、被告の説明は抽象的な説明に終始し、平成六年一二月一三日の後は、原告らが仮処分申請をしたことを理由に組合との協議を拒否しており、解雇ないし再雇用の基準についても到底誠意ある説明がなされたとはいえない。
なお、被告は、再雇用者に会社に残る意思確認を行ったのは、再雇用者が内定した平成六年一一月七日以後であると主張し、和議申立以前における再雇用者の人選と再雇用者との交渉を否定し、(人証略)や被告代表者は、右の被告の主張に沿う供述をしているのであるが、同月八日になされた解雇予告手当の支払許可申請には再雇用者が対象者として掲記されておらず、わずか一日で再雇用予定者に対する意思確認等がなされたとは考えられない(この点は被告もそのような主張はしていない。被告代表者の陳述書(<証拠略>)には、再雇用予定者が解雇予告手当を辞退してくれることを期待したとの記載があるが、被告は従業員の確保が懸念されたと主張しているのであり、被告に残ることの意思確認もできていない段階で、解雇予告手当の辞退を期待するというのは不合理というほかなく、到底信用できない。)から、遅くとも被告は右許可申請前には再雇用者の雇用継続の承諾と予告手当放棄の意思確認とを終えていたものというべきであり、被告の右主張は採用できない。他に右推認の妨げとなる事実を認めるに足る証拠はない。
(4) 被告は、前記仮処分申請事件の手続において、本件選別基準を初めて明らかにしたが、これまで、解雇当日の説明会や前後六回にも及ぶ協議会においては、これを明らかにせず、それまでは、再建に役立つ人等という抽象的な表現でしか人選を説明してこなかったこと、また、各部署担当役員から推薦者を記載して提出された稟議書(<証拠略>)や平成七年一月になって各部署の責任者に再雇用者推薦理由を明らかにするため作成させたという書面(<証拠略>)にも本件選別基準の存在を窺わせるような記載は全くないのであって、以上に照らすと、果たして被告が予め定めた本件選別基準によって再雇用者を選出したかには多大な疑問があり、むしろ、本件選別基準は、訴訟になってから後、現実に行った人選に合致するよう作成されたのではないかと強く疑われるところである。
これに関して、被告は平成六年一〇月二六日に本件選別基準を作成し、これに基づいて人選を行い、同年一一月七日ころ再雇用者を内定したと主張しているが、(人証略)や被告代表者は、本件選別基準を作成したのは同月二七日あるいは二八日であったと述べて、本件選別基準の作成時期について被告の右主張とは齟齬する供述をしている。本件選別基準の作成時期と再雇用者選別作業を行った時期とは、被告が、真実そのような基準にもとづいて人選を行ったか否かを判断する上で重要な点であり、和議申立という被告にとって極めて重大な事態が存するのであるから、これを基準にする限り、本件選別基準作成時期についての被告の主張と被告代表者らの供述とが、その前後に齟齬することは考え難いところである。それにもかかわらず、かかる齟齬が生じているのは、一方で、既に和議申立前日、被告から残留を打診されたという従業員が存したことが明らかとなっていることから、被告がこれとつじつまを合わせようとして本件選別基準の作成時期を同日以前であると主張し、他方、原告らから、全員解雇が整理解雇の規制を潜脱するものであると主張されていることに対して、和議申立時には未だ人選作業を行っていなかったとの被告の主張を正当化しようとして、被告代表者や(人証略)が本件選別基準作成時期を和議申立以後と供述したものではないかとも推測されるところであって、右の主張と供述は、いずれも採用し難いのみならず、その間に齟齬があることは、却って、右の疑念を強くさせられるところである。
しかも、本件選別基準の内容をみても、業務に秀でた者、能力のある者等抽象的で評価的な要素が多く、客観的な選定基準とはいい難く、本件選別基準に、選別者の恣意的な人選を防止するというような機能は期待できない。
現に、再雇用者の人選を見ても、被告の主張によれば、各部署担当役員がまず、当該部署の幹部クラスを選出し、選出された幹部従業員が部下を選出したというのであるが、従前の支社長や部長クラスの幹部職員は殆ど全て再雇用されており、これでは、果たして経営破綻についての原因究明やそれを踏まえた再建に向けての真摯な人選がなされたかについて疑問がもたれるのも当然というべきである。
以上を要するに、被告の本件解雇については、解雇回避努力、解雇手続における説明義務の履践等に信義に従った手続きがされていないし、既に和議申立段階で再雇用者、したがってまた、被解雇者の人選を終えているが、その人選については多分に恣意的になされた疑いがあり、かつ、現実の人選も疑問なしとしないもので、客観的で合理的な基準に基づいて被解雇者の人選を行ったとは到底認められず、第一解雇は権利の濫用に該当し、無効というべきである。
三 第二解雇の有効性
被告は、第一解雇の人選を前提として、予備的に、その後説明義務を尽くしたことを理由に第二解雇が有効である旨主張するが、右のとおり、当裁判所は、第一解雇は、手続の妥当性を欠くほか、人選の合理性が認められないとの理由で、権利濫用に該当すると判断するものであるから、第一解雇の人選を前提とする第二解雇もまた、権利の濫用に該当するものとして無効というべきである。
なお、被告のように、説明義務違反を理由に仮処分で解雇無効との判断を受けながら、解雇後、訴訟外で及び訴訟の審理の中で説明義務を果たしたことを理由に再解雇することは、従業員の地位を不安定にする極めて信義に反した行為というべきであって、その点から見ても、第二解雇は権利の濫用に該当するというべきである。
四 未払賃金
原告原及び同春名が本件第一解雇前三か月に支給されてきた賃金の月平均額、原告岡田第(ママ)一解雇前二か月の月平均額には争いがない(ただし、同原告は、平成六年八月まで育児休業をとっていた。<証拠略>)。
なお、弁論の全趣旨によれば、被告が提供した解雇予告手当を、原告らが平成六年一一月分の賃金として受領したことが認められるけれども、被告は右金員はあくまで解雇予告手当であって賃金ではないと主張しており、そうすると、平成六年一一月分の原告らの賃金も未払というべきである。
ところで、原告らは、毎月の賃金につき将来の給付を求めるが、被告の従業員たる地位を確認する判決がさ(ママ)れた場合であっても、原告らの労務提供がいつまでなされるかは不確定であるから、本判決確定後の賃金の支払を求める部分については、訴えの利益を欠き、不適法というべきである。
五 以上によれば、原告らの地位確認及び本判決確定までの賃金の支払を求める請求は理由があるが、右賃金に対する遅延損害金の支払を求める請求は、支払期日が経過したその翌日以降の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がなく、本判決確定後の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める訴えは不適法である。
よって、主文のとおり判断する。
(裁判長裁判官 松本哲泓 裁判官 松尾嘉倫 裁判官 森鍵一)